「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展(毎日新聞社など主催、21日まで)が開かれている東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムに、盲導犬普及のための「パトラッシュ基金」の募金箱が設置されています=写真㊤。パトラッシュはアニメ「フランダースの犬」の主役・ネロ少年の愛犬です。基金は2010年、同アニメを制作した日本アニメーション㈱が盲導犬の普及事業を支援しようと設立したもので、募金はNPO法人・全国盲導犬施設連合会を通じ、盲導犬の育成や訓練に役立てられるそうです。
パトラッシュという名前、ルーベンスの愛犬の名を借りたものという説もあるそうですが、犬種は? アニメではセントバーナードのようにも見えますが、耳が立っている点が決定的に違います。
英国の作家の原作は下のような挿絵=写真㊦㊧=とともに、「皮は黄色で、頭と手足は大きく、まっすぐに立ったおおかみのような耳」「四本の丈夫な黄褐色の足」などと描写していて、フランダース(フランドル)地方原産のブービエ・デ・フランドル(ブービエはフランス語で牛飼い犬)という毛むくじゃらの犬がモデルというのが定説(ブービエ・デ・フランダースとも言いますが、フランス語のブービエと英語のフランダースという発音が組み合わさっていて、本当は変です)。1998年のアメリカ映画「A dog of Flanders」も、この犬です=写真㊦㊨。レーガン元米大統領の愛犬がこの種で、黒っぽい毛並みが多いのですが、中には明るい褐色や白っぽいものもあるようです。
1959年のアメリカ映画のパトラッシュはラブラドール・レトリバーのように見えます=写真㊦㊧。19世紀半ば~後半という物語の時代にベルギーにこの犬種がいたとは思えません。1935年のアメリカ映画は完全にシェパード=写真㊦㊨。パトラッシュはベルギー原産「ベルジアン・シェパード・ドッグ」との説もあるようです。
よくわからないので、アニメを制作した日本アニメーションさんに問い合わせたら、次のような返答をいただきました。
「作品を制作するにあたり、当時のスタッフがイメージをオリジナルで作成させていただきました。パトラッシュは正式な犬種ではございません。」
まあ、可愛いからいいですよね。
先日紹介したベルギー現地での物語の低い評価ともかかわりますが、単純に今の感覚で人間と犬の関係を理解しない方がいいのではないないかと思います。ブービエ・デ・フランドルは「牧畜犬、運搬犬としてまたバター製造の攪乳器を動かす為に使用されていた」(ジャパンケンネルクラブのサイト)ということです。話の中で、パトラッシュは強欲な金物屋にこき使われ、鞭打たれた挙句、働けなくなった瀕死の状態で捨てられたところをネロに救われ、回復すると、牛乳缶を積んだ荷車を曳いて恩返しします。「健気」が現代人の感覚ですが、物語の時代、犬が荷車を引くのは当たり前だったということも、押さえておきたいところ。「虐待」は論外ですが、時代の移ろいを含め、いろいろと考えさせられます。