東京で最初のプラネタリウムを設置した東日天文館があった東日会館(東京・有楽町、毎日新聞社の前身、東京日日新聞社のビル)の前景イラストの絵葉書を、このコーナーにたびたび登場しているアマチュア天文家、小川誠治さんから提供されました。小川さんが以前送ってくれた東日会館のモノクロ写真には「東日天文館」の文字が会館の上部角にありますがイラストでは3階の壁面にあることなどから、絵葉書は多分完成前のイメージイラストだと思われます。
東日会館、東日天文館は昭和18(1943)年に東京日日新聞社が毎日新聞社に社名変更したのに伴い、毎日会館、毎日天文館に名称変更になりました。
ところで「東日天文館」「毎日天文館」がSF小説の舞台になったのをご存知ですか? 平成13(2001)年に出版された瀬名秀明著「虹の天象儀」(祥伝社文庫、400円)です。
物語は、同年3月11日に閉館した東京・渋谷の天文博物館「五島プラネタリウム」に閉館の翌日、一人の少年が訪れ、残務整理をしていた解説員の「私」にプラネタリウムを見せてほしいと懇願したことから始まります。プラネタリウムの投影機を開けて覗き込んで機械の説明をしているうちに、吸い込まれるようなり、軽いショックがあったと思うと昭和18年10月4日にタイムスリップします。毎日天文館の鍵を持っていたことから「私」は同館に行き、そこで解説員と毎日新聞文化部の女性記者に会って、「1年半後に同館は空襲で焼け落ちる」と告げ、貴重な資料を安全な場所に保管するようアドバイスする――といった展開で進みます。
実際、毎日会館は昭和20(1945)年5月の空襲で、焼夷弾によって火災が起きて毎日天文館はプラネタリウムの機械ごと焼失してしまいます。小説では毎日会館や近隣の被災の様子や、戦後の有楽町、毎日会館、毎日新聞などについても描かれています。また、病床にあった当時の人気作家・織田作之助を見舞うなどし、織田作とプラネタリウムをめぐる物語も込められています。
SF小説だけではありません。わずか8年の命しかなかった東日天文館(毎日天文館)ですが、当時の人たちには愛されていたようで、流行歌でも有楽町のプラネタリウムは登場します。
昭和14(1939)年に淡谷のり子が歌った「東京ブルース」(西條八十作詞、服部良一作曲)。2番の歌詞は「ラッシュ・アワーの 黄昏を 君といそいそ エレベーター ああプラネタリウムの きれいな星空・・・・・・」となっています。直接「東日会館」という表現はありませんが、当時、プラネタリウムは東京で1つしかなく、明らかに東日天文館のプラネタリウムということがわかります。