パレスサイドビルから歩いて5分、千代田区九段南の区立千代田図書館(区役所9階)で、ミニ展示「谷崎潤一郎と映画」が開かれています。12月22日(土)まで=写真㊤はチラシ。
作家谷崎潤一郎の作品はいくらも映画になっていますが、谷崎が映画4本を製作したことは、知る人ぞ知るところ。これに焦点を当てた展示です。
歌舞伎や新派の実写にすぎなかった日本映画の革新を目指して1920(大正9)年に「大正活映」(大活、25年製作中止、27年解散)が設立されました。谷崎もこれに参加したのです。
作品は「アマチュア倶楽部」「葛飾砂子」「雛祭の夜」「蛇性の婬」の4本。フィルムは残念ながら現存しませんが、スチールやシナリオなどは断片的に残っていて、「映画と谷崎」(千葉伸夫、青蛙房、絶版)などで見ることができます。それによると、①「アマチュア倶楽部」は谷崎がオリジナル・ストーリーを書き、アメリカ帰りの栗原トーマス(栗原喜三郎、1885~1926)が監督、キートンばりのドタバタもあるコメディー=写真㊦は1920年8月の「アマチュア倶楽部」撮影記念で、前列右から4人目が谷崎、3人目が主演の葉山三千子②「葛飾砂子」は泉鏡花の原作を谷崎が脚色。鏡花の世界を陰影豊かに描き、後に溝口健二が完成させる「日本映画の美学」の先駆けとなったと評価される③「雛祭の夜」は谷崎のオリジナル作品で、主人公の3歳の少女愛子を谷崎の娘鮎子(当時6歳)が演じ、雛祭の夜、愛子は夢の中で人形につれられて綺麗な山を越えて遊んだというファンタジー④「蛇性の婬」は上田秋成(1734~1776)の「雨月物語」が原作で、大蛇が美しい女に姿を変えて主人公にまとわりつく、ちょっと怖い話。
谷崎が映画に入れ込んだ理由に、妻千代の妹の葉山三千子を映画に出すという思惑があったとの指摘があります。後に千代が谷崎と離婚して友人の作家・佐藤春夫と結婚したのは「小田原事件」として有名ですが、三千子は谷崎の「痴人の愛」のモデルと言われ、「アマチュア倶楽部」の主演を張っています。ただし、結局、谷崎と一緒にはなりませんでした。
谷崎のことを書き始めるときりがありませんが、図書館の展示は大妻女子大学と連携した展示で、谷崎の時代の映画界の様子を同女子大所蔵の貴重な資料でたどるもの。当時、映画化され日本でも大ブームとなったフランスの怪盗小説シリーズ「ジゴマ」関連書籍などが出展されています(資料保護のため11月17~26日以外は複製を展示)。
関連イベントとして、大妻女子大学の城殿智行准教授が11月21日(水)午後6時30分~8時、区役所1階・千代田区民ホールで「谷崎と映画の奇妙なかかわり―『春琴抄』を中心にして―」と題して講演します。参加無料、事前申し込み不要、当日先着順。