パレスサイドビルから近い神田錦町の交差点辺りのビルエントランスに、街の空気を包み込むように、ゆったりと立つオブジェがあります=写真㊤。まるで孫悟空を掌で遊ばせる、あのお釈迦様の掌のようなのですが、よく見ると指かなと思うところは7本、明らかに掌ではありません。
銘板には『豊饒<七つの莢の豆>2003 池田政治』とあります。指と見たものは莢(さや)でした。池田さんは、公共空間のデザインを多く手がけ、造形と社会との関係を問いつづけてきた方です。こういう街角のアートから、その造形作家の道筋をたどっていくのは楽しいものです。
池田さんは共立女子大学で教えたのち、東京芸術大学で多くの仕事を手掛けられました。今、デザイン学部長をされている東京工科大学のWebから、ご本人の話を少し引用します。
「1995年に東名高速道路の足柄サービスエリア(上り線)で、全長350mという大空間の外構デザインをディレクションしました=写真㊦。もともとこの大空間は、何もない無機的な空間だったのですが、そこをもっと人間的な空間にしたいと依頼を受け、始まった仕事です。木々はサービスエリア周辺にたくさんあるので、逆にそれを引き立てるようなシンプルな人工物がふさわしいだろうと考え、最も単純な形にしました。大きさの異なるモニュメント9基を林立させ、それらの配置によって有機的な空間を生み出す試みをしました」と話されています。
釈迦の掌にも似た「七つの莢の豆」とこの足柄サービスエリアのモニュメントと、作品を置く場所を想定してつくられたということ以外の共通性を探しながら見るとき、街角のアートたちは趣深いものです。