竹橋のパレスサイドビルから歩いて15分ほど、神田駅界隈をぶらぶらしていたら須田町交差点近くの植込みに帽子をかぶった優しそうな美人が立っています=写真㊤。いつもは通り過ぎるだけですが、珍しく立ち止まってみたら、台座に「華ごろも 田中昭」とありました。1988年の作だそうです。
田中さんは1929年富山県生まれ。日展評議員、日本彫刻会監事等を務めた現代日本を代表する彫刻家だそうで、実はすぐ近くに、「健やかに」=写真㊨=という少年と少女が寄り添った像もあるんです。神田駅の日本橋側の改札を出たところなので、こちらの方が馴染みのある方が多いかもしれません。
どちらも、頬がちょっとふっくらして愛らしいしぐさがいいですね。まなざしはちょっと寂しげな気がします。これが田中作品の特徴のようです。
ネットで検索すると、ヤフオクなどで「華ごろも」が売りに出された記録が続々、引っ掛かります。本物はほぼ等身大の大きさなのに対し、出品されてい るのは、石の台を含む高さ53.5センチ、重さ12.8キロと小ぶり。足元の裏側に「T.AKIRA'88」のサインがあり、ホンモノであることのの証明書がついた木箱入りの立派なものです=写真㊧。本体の作品とともに作られて売り出されたもののようです。
ところで、華ごろもが建っているのは万惣ビルという建物の前。このビル、銀座「千疋屋」や新宿「高野」と並ぶ東京のフルーツパーラー御三家の一角、万惣フルーツパーラーの本店がありました。1846(弘化3)年創業、160年以上の歴史を誇る老舗で、神田駅から上野方面へ続く中央通りと靖国通りが交差する一等地とあって、賑わっていたのですが、耐震上の問題で昨年3月に休業(閉店)したそうで、閉店間際に名物のホットケーキを最後に味わいたいというフアンが長蛇の列をつくったとか。銀座、丸の内のお店も相前後して閉めたとか。華ごろものお嬢さんのちょっと悲しげな表情が、そんな老舗の物語に妙に重なります。