東京・竹橋のパレスサイドビル前にある皇居東御苑内、本丸緑の泉北側に植えられているアセビ、アケボノアセビがスズランの様な小さな花を数多くつけています。白い花がアセビ、ピンク色がアケボノアセビで、まだ緑も少なくさびしい春先に明るい彩をそえてくれています。
アセビまたはアシビは漢字で書くと馬酔木。葉っぱに毒があり、馬が食べると酔ったようにふらふらになって苦しむというところから来たようです。鹿など葉っぱを食べる草食動物たちもそれを知っていて、他の木の葉を食べるためアセビだけが残って目立っているところも多いそうです。葉っぱを煎じて殺虫剤として使われたこともあるそうです。
でも、喫茶店やカフェ、レストランなど飲食店で「馬酔木」という名がついて店も各地に結構あります。飲食の店でわざわざ毒がある植物の名前を付けるのはなぜ? という感じもしないでもありません。一つ一つの小さな花の可憐さと花が塊となって咲いた時の見事さに感じ入って付けられたのでしょうか。
万葉集に、作者不詳ですが、
馬酔木なす 栄えし君が 掘りし井の 石井の水は のめどあかぬかも
という和歌があります。
栄えたあなたが掘った井戸、石の井戸の水はでいくら飲んでもあきないものですね、という意味で高貴な人と、井戸を褒めたたえた歌です。「馬酔木なす」は栄えの枕詞で、アセビの白い花が下を向いて垂れ下がって咲く様子に稲に見立て、穀物の豊かな実りを保証し、繁栄を祝う意味もあるようです。
正岡子規の後、写生を旨とする根岸短歌会が発行し、伊藤左千夫、長塚節らが編集者に名を連ねた短歌雑誌や水原秋桜子、山口青邨、石田波郷らの同人俳句雑誌にも「馬酔木」というのがあります。
花の見た目だけでなく万葉集で表現される「栄える」にあやかって付けられたのでしょう。