保己一は7歳の時に失明しましたが、抜群の記憶力で古文献を耳から暗記し、各地に散らばっている日本の歴史や、文学、古い法律などの文献、資料を収集して保存を行いました。貴重な古典資料が散逸、焼失しないように、後世の人たちの研究の助けになるように、との考えからです。中でも保己一が編纂・出版した「群書類従(ぐんしょるいじゅう)」は古代から江戸時代初期までに書かれた歴史書や文学作品など計1277種を収め、666冊におよぶ日本最大の国書の叢書(シリーズ本)として高く評価されています。南北朝時代に南朝の正統性を述べた「神皇正統記」、聖徳太子の伝記「上宮聖徳法王帝説」、「紫式部日記」、「将門記」、浦島太郎の伝説「浦島子伝」や四条天皇、伏見天皇らの天皇の葬儀の記録なども収録されています。
群書類従は木版で刊行されましたが、版木は20字×20行の400字詰めになっており、これが原稿用紙の基本様式になっているのです。
その版木は、明治維新後、一時東京帝国大学(現東京大学)の管理下にありましたが、時代とともにどこにあるか世間から忘れ去られていました。しかし、明治42(1909)年、現在は竹橋・パレスサイドビルの敷地になっている場所にあった文部省構内の倉庫から奇跡的に発見されたのです。
まさに歴史的発見で、版木は昭和32(1957)年に国の重要文化財に指定されました。現在は、保己一の偉業を顕彰するために渋沢栄一らによって設立された社団法人「温故学会」の温故学会会館(渋谷区東)に大切に保管されています。この会館も国の有形文化財に登録されているのです。