久しぶりに浮世絵の続きを。
江戸時代の回向院勧進相撲の谷風からそれたついでに、歌麿の話をもう少し。彼の美人画は数あれど、最も有名で、代表作の一つに数えられるのが「高名美人六家撰」で、1794~95(寛政6~7)年、一番脂の乗り切ったころの作品ということです。順番に、左上から難波屋おきたサン、辰巳路考サン、高島屋おひさサン、扇屋花扇サン、日之出屋後家サン、富本豊雛サンの6人を一人ずつ描いています。
それぞれの絵の右肩には「判じ絵」。美人の名を絵で表したものです。難波屋おきたサンの場合、㊨の写真のように、菜が二束と矢で「なにわや」、沖と田甫で「おきた」となり、辰巳路考サンは龍、蛇、舟をこぐ櫓、線香と言った具合です。江戸の浮世絵師は洒落気たっぷりで、こんなことでも人を驚かせて喜んだようです。
11月4日の当ブログで、「当時三美人」として紹介したおきたサン、豊雛サン、おひさサンも、この「高名美人六家撰」では微妙に、または大幅に、絵の様相が異なります。
幾多のおきたサンの絵柄のなかでも、この1枚は特にすぐれていると評される作品。茶碗を運ぶ目元や手つきに繊細な女性美が表現され、淡藍のひとえに黒繻子の幅広の帯と高く結い上げた娘島田から見事に流れるうなじの線と、全体の構図も申し分ありません。おひさサンも、度々浮世絵にその姿を描かれていますが、この絵は眉を剃り落とした女房姿です。豊雛サンはかぶり物で違った印象を与えます。
これ以外の3人も紹介すると――
花扇サンは扇屋の最高位の遊女で、当時非常に評判が高く人気がありました。手紙を綴る姿が、美貌と共に教養の高さを伺わせます。日の出屋後家サンだけは名前がありませんが、湯上がりの眉を落とした顔、露わになった白い腕など、しっとりした感じが印象的で、ちょっとエロチック。路考サンは深川の人気芸者で、髪に手を添える仕草が艶めかしいですね。
この6人の女性の顔は、おそらく、歌麿が理想とする女性の顔でしょう。現実の女性がホントにこんな顔だったわけではないでしょうが、まあ、野暮なことは言いっこなしで、彼が感じた女性の美を味わいましょう。
毎日新聞社もかつて、浮世絵の写真集を出したことがあるようで、先日紹介した「当時三美人」を収めたものもありました。ネットで検索すると古本が出てきます。