ビルの名前あれこれの話を4月14日の当ブログで書きましたが、久しぶりに続き。大阪です。
3月7日、大阪市・天王寺駅前に全面開業した日本一の高層ビル「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区、高さ約300メートル)があります。「安倍の」は地名の阿倍野。「ハルカス」の由来は「晴るかす」。平安時代に書かれた伊勢物語の第95段に出てきます。
昔、清和天皇の二条の后の藤原高子に仕える男が、后に仕える女に求婚する話ですが、「いかで物越しに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、すこしはるかさむ」という一節があります。男は女に求婚し続け、「何とかして物越しに(衝立かなにかを間に置いて)対面して、不安に思う気持ちを少しばかり晴々させたい」と言ったというくだりです。ちなみに、女が応じて対面すると、男は「彦星に 恋はまさりぬ 天の河 へだつる関を 今はやめてよ」と詠みます。あなたを恋しく思う気持ちは彦星にも優るから、二人を隔てる天の川の関所(衝立)を取り払ってください」と呼び掛けると、女は対面を許し・・・というハッピーエンドです。男の真心に惚れたのでしょうか。なかなかロマンチックな場面です。
この「はるかさむ」=「人の心を晴れ晴れとさせる」にあやかり、ビルの上層階から晴れやかな景色を見渡して爽快感を味わえることや、多彩で充実した施設で来訪者に心地よさを感じてもらいたいという思いが込めているとか。「あべの」と冠して阿倍野の知名度向上とイメージアップも狙ったとか。
大阪でもうひとつ。パレスサイドビルと同じ毎日ビルディングが管理する「毎日インテシオ」(大阪市北区梅田3丁目)を紹介します。毎日新聞大阪本社の敷地内の西側にあり、地上21階建て、高さ99.3メートル、延べ床面積3万2126平方メートルで、2007年8月オープン。写真㊧のように、同敷地の逆L字型の毎日新聞大阪本社ビル(写真の右側)に抱かれるように立つ兄弟ビルです。各フロアは東、北、西側の三方が横連窓でつながっていて、明るく開放的なオフィス空間を確保、非接触ICカードも導入、高度な耐震設計も取り入れています。「インテシオ」は、スペイン語の「intelectual」(知的)と「edificio」(建物)を組み合わせた造語で、情報発信基地としての役割を表現しています。(問い合わせは毎日ビルディング大阪本社☎ 06-6346-8833)
話に脈絡はありませんが、ン十年前に住んでいた鹿児島のビルからも一つ。新幹線が止まる鹿児島市の表玄関、鹿児島中央駅東口のすぐ前に建つ「キャンセビル」です。塔屋に「ダイエー」のロゴがある通り、ダイエー鹿児島中央店がキーテナントとして入居しています。ベージュの壁面には「コカ・コーラ」と「さつま白波」のひときわ目立つ広告が以前はありました(今もあるんでしょうか)。駅前再開発によって、1999年6月に完成したビルです。
1200点もの応募作の中から選ばれた「キャンセ」という名は、鹿児島の方言にちなんだもので、「来やんせ」、つまり「どうぞおいでください」「いらっしゃい」と呼びかける言葉なのです。
ハイ、以上、話に落ちはありませんが、名前一つにも、いろんな思いが込められているわけで、人間の営みの濃さを感じます。