【2014年3月28日】のアーカイブ

 1657(明暦3)年に竹橋界隈の武家屋敷などを含め江戸の町を焼き尽くした「明暦の大火」(旧暦1月18~20日=現在の3月2~4日)は、本郷丸山の本妙寺(現在の文京区本郷5丁目)でまず起こり、その後2カ所でも発火した火災の総称で、本妙寺本妙寺跡3.jpgの出火原因として「振袖火事」という都市伝説も紹介しました。
 でも、「本妙寺=火元」に異論もあるのです。
本妙寺は1910(明治43)年に豊島区巣鴨5丁目に移転するまで、大火当時と同じ本郷にありました。その跡の一角に建つマンションの前に文京区教委が「本妙寺跡と明暦の大火」本妙寺跡.jpgのプレートを設置しており=写真㊧㊤、「"振袖火事"の火元とされているが原因には諸説がある」と書かれています=写真㊧㊦
 当の本妙寺のホームページも見てみましょう(http://www6.ocn.ne.jp/~honmyoji/)。
 「本当は本妙寺は火元ではない。幕府の要請により火元の汚名をかぶったのである。・・・真相は、本妙寺に隣接して風上にあった阿部家が火元である」と断言し、当時の寺周辺の位置関係に風向きも描いた地図=一番上の写真=を掲げ、「老中(阿部忠秋)の屋敷が火元とあっては幕府の威信失墜、江戸復興政策への支障をきたすため、幕府の要請により火元の汚名を引受けたのである」と記しています。
なぜ、そういえるのか、状況証拠を2点、挙げています。
 第1。「当時、江戸は火事が多く、幕府は火元に対しては厳罰をもって対処してきたが、当山に対しては一切お咎(とが)めなしであった。それだけでなく、大火から3年後には客殿、庫裡を、6年後には本堂を復興・・・これはむしろ異例な厚遇である」
 第2。「阿部忠秋家から毎年当山へ明暦の大火の供養料が大正12年の関東大震災にいたるまで260年余にわたり奉納されていた。・・・阿部家を失火の責任から救うということ・・・に対するお礼と解するのが妥当である」
 より詳細なレポート(「http://www6.ocn.ne.jp/~honmyoji/taika/hurikaji.pdf」)もあり、この「真相解明」は、本妙寺第40世・村上日宣上人(1967年没)が「もはや300年も経ち、誰にも迷惑はかかることもなく、時効であろう」として『寺報』で発表した「明暦の大火火元の真相」に基づき、檀徒の杉山繁雄氏(1988年没)が仏教総合雑誌「大法輪」1983年1月号に「振袖火事の真相」と題して書いたのがベースとのこと。(ちなみに、阿部忠秋は由井正雪の乱後の浪人たちの江戸追放論に「根本原因は生活の困窮であり、追放は解決にならない」と反対したとか、多くの捨て子を育てたとか、人情味のある人だったことを示す逸話が多く残っているそうです)
 振袖伝説も真相を隠ぺいするために造られたと考えれば納得がいきます。26日の当ブログで紹介した幕府放火説と比べても、阿部家失火説の方が信憑性は高いように思います。
 ただ、腑に落ちない点が一つあります。一番上の地図をもう一度よく見てください。「阿部伊豫守」とありますね。「伊豫(予)守」は阿部の本家(阿部福山家)、つまり阿部忠秋の従兄でやはり老中を務めた重次(対馬守)の家で、重次の祖父・正勝と二男・正春が伊予守を名乗っていました。ちなみに、分家(阿部白河家)の忠秋は豊後守、その養子・正能は播磨守です。ただ、忠秋も伊予守正勝の孫ではあります。
 この地図、「江戸切絵図」といい、尾張屋という板元が江戸時代末期の1849(嘉永2)年~1863(文久3)年の15年間に32種を世に出したうちの1枚。では、発行当時の阿部家はというと、阿部白河家は第14代の播磨守正耆、第15代の豊後守正外らで、伊予守ではありません。本家(阿部福山家)は第10代の正寧、12代正教がいずれも伊予守です。

 また、あるサイトによると、大火の⑦明暦の大火 本妙寺地図3.jpg10年余り前の1644(正保元)年の「正保年中江戸絵図」=写真㊨=を見ると、阿部屋敷は「阿部對梅(対馬)守」と書かれていますから、重次です(本妙寺は描いてありませんが、サイトによると②の位置とのことで、この地図を右に90度回すと一番上の地図とほぼ同じ位置関係になります)。
 地図について3月中旬、本妙寺にメールで問い合わせましたが、28日正午現在、回答は届いていません。
 本妙寺の隣は、本当に忠秋の家だったのか。地図が間違っているだけなのか・・・。

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