【2014年1月24日】のアーカイブ

 ぶらりとパレスサイドビルから白山通りを歩いて、神保町へ。交差点を渡ってちょっと右前方に入って行くと千代田区立お茶の水小学校・幼稚園があります。ここから北西方向にやや斜めに東西約200メートル、南北約600メートルの細長い形の地域が「猿楽町」。お茶の水小のところの金網には「猿楽町1丁目1」の住居表示がかかります。猿楽町の中心を、背骨のように猿楽通り=写真㊨㊦=が走ります。

 猿楽町の北西隣り、JR水道橋駅の南側の真ん前の南北・東西各500メートルほどの台形の地域は「三崎町」です。

 この両町で、町名を巡ってホットな論争が持ち上がっているそうです。町の上に「神田」を付ける否かの「冠」論争です。

 発端は2004年、両町の「神田」復活の要望書が署名約1100人分とともに区に提出●猿楽町2.jpgされたこと。ところが、逆に約1500人分の反対署名が出され、賛否真っ二つに割れた状況です。2012年に区が実施したアンケートでは、賛成・どちらかといえば賛成が57%、反対・どちらかといえば反対が42%と大差ありません。

 歴史を振り返ると、明治初期は「三崎町」「猿楽町」という町名だったのが、第2次大戦後の1947(昭和22)年に神田区と麹町区が合併して千代田区となった際、旧神田区の町がいっせいに神田を冠することになり、それぞれ「神田三崎町」「神田猿楽町」に。ところが、1962年、郵便配達などの効率化を目指した住所表示法施行に伴い、区は「神田冠称の不採用」を決め、それぞれ1967年に三崎町、1969年に猿楽町になり、現在に至ります。

 千代田区は町名を文化として大事にしているようで、ホームページにわざわざ「町名由来板」というページを設け、110の町名の説明を掲載(http://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/bunka/bunka/chome/yurai/index.html)しています。冠復活が区の本心なのかもしれません。

 その町名由来によると、三崎町は江戸幕府が開かれるころまで三崎村と呼ばれ、日比谷入江という遠浅の海に突き出た土地の端にあったため、そう名が付いたと伝えられます。やがて入江や湿地帯は埋め立てられ、大名や旗本の武家屋敷が立ち並ぶ町に変わり、1872(明治5)年、東京の多くの町が新町名に変更された際に、この界隈は三崎町と改称。「神田三崎町」だったのは第2次大戦後の1947~67の20年ほどだけということになります。

 猿楽町も、江戸時代は一帯が武家屋敷で、現在の錦華通りが表猿楽丁、猿楽通りが裏猿楽丁と呼ばれていました。慶長年間のころ、現在の神田神保町から西神田にかけて猿楽師・観世大夫(かんぜだゆう)の一座の屋敷があったことが名の由来。戦後、神田の冠が付いていたのは22年ほど。

 実は、1960年代に神田の冠廃止が決まっても、「神田神保町」や「神田小川町」など神田を外さなかった町が今も26残っています。中には、「鍛冶町」のように、1、2丁目は「鍛冶町」になったのに3丁目だけ「神田鍛冶町」のままというところもあります。そんなこともあって、冠復活派は「神田は価値のあるブランド名。歴史ある名称を復活させ、地域を活性化させたい」と訴えます。しかし、反対派は、猿楽町などが元は武家屋敷で、「『神田』の意味は、神社に供える供物を作る田畑であり、なぜ意味が違う名称を上につけるのか」と言います。また、猿楽町の場合は渋谷区の猿楽町、三崎町も神奈川県の旧三崎町(現横須賀市)など、紛らわしい他の地名との「差別化」の必要からも神田を冠すべしとの主張の一方、事業者からは「住所表示が変わると印刷物の作り替えなどで出費が増える」との切実な声も聞かれるとか。

 なにせ、江戸時代から日本の中心・東京の、そのまたド真ん中に位置する千代田区です。京都にはかなわないまでも、数多くの町名のひとつひとつが「江戸開府以来、面々と続く歴史に培われた伝統と文化を有しています」(区ホームページ)。そこに何代、何十代にもわたって暮らす人から新住民まで、様々な人が住み、働くのですから、意見が割れるのは当然かもしれません。

 昨年11月に、区の「住居表示審議会」という正式の機関が34年ぶりに開かれ、冠復活に賛成・反対双方の主張を聞く場を設けることになったようです。特定秘密保護法のように「強行採決」するわけにいくはずもなく、議論が収斂するまでには時間がかかりそうですネ。

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