【2013年12月26日】のアーカイブ

 先日、岩波書店が創業100年を迎えたことを書きましたが、「△※▼ウン周年」というのは今年もいろいろありました。年末駆け込みで恐縮ですが、「学徒出陣70年」について書きます。

 東條英樹内閣は1943年10月、大学生らの徴兵猶予の停止を公布しました。主に文科系の学生対象で、10月21日に東京・明治神宮外苑競技場で文部省主催の大規模な出陣学徒壮行会が開かれました=写真㊤は慶応生の隊列。学徒兵の総数は10万人以上と言われるものの、正確な数は分かっていないし、戦死者数も不明。さらに、これより前、卒業を繰り上げられて徴兵され、戦地に赴いた人もいたといい、こうした広義の学徒出陣も含めると、実態は不明なのだそうです。

 節目の年ということで、マスコミも特集記事を多く報じました。その一つ、毎日新聞は「現代史探検」と●還らざる学友の碑.jpgいうシリーズの第8回(11月12日朝刊)で書いています。記事によると、全国の大学で、祈念碑・像や記名碑を建てているのは小樽商科大、福島大、一橋大、早稲田大、東洋大など約20校にすぎず、1998年にOBの元学徒兵らの要請に応じ三田キャンパス(東京都港区)に「還らざる学友の碑」=写真㊨=を建立した慶応大の例を紹介。当時の鳥居泰彦塾長は、学内には建立に慎重な声が根強くあったとして、「いろんな大学が、碑を造るのに苦労しています。あの戦争に、どんな形にせよ参加した人は悪い人だという考えが残っていた。日本人は戦争の仕方がヘタで、後始末もヘタなんです」と語っています。

 遅れていた検証作業は今もいろいろな人が努力していますが、この記事でも、1990年代に複数の大学や研究者が動き出し、東京大学史史料室は1993年から2年半調査し、1997年に「東京大学の学徒動員・学徒出陣」を刊行したこと、白井厚・慶応大名誉教授(83)が教授時代、学生とともに戦争を体験したimg199.jpgOBへのアンケートを実施(1700人が回答)、遺族の聞き取りや文献調査なども進めて1999年に2165人の戦没者名簿、2005年には2224人の名簿を発表したことなどを紹介しています。

 白井ゼミは、このアンケートをもとに、『太平洋戦争と慶応義塾』(白井さ ん監修、慶応義塾大学出版会、1999年)=写真㊧=を出しています。

 この本の中に、一昨日(24日)当ブログで書いた「岩波書店100年」と関連する話を見つけました。慶応義塾の創始者・福沢諭吉の『文明論之概略』岩波文庫版から、1936(昭和11)年に一部の記述が削除された検閲のことを紹介しましたが、その翌年の1937年に発行された陸軍士官学校の歴史教科書『本邦史教程』で、福沢の『学問のすゝめ』が厳しく批判されたという話についてです。福沢がたたかれた理由は岩波の場合と同じく楠正成への評価(24日に紹介した楠公権助論)などです。『本邦史教程』次のように書かれています。

 「是れ即ち自由平等の説にして、之を徹底せしむる時は、君臣の関係は畢竟(ひっきょう)便宜的にして、功利に基くとなす説といふべきなり。・・・而(しこう)して斯(か)かる実用功利の上から見れば、楠正成の誠忠、赤穂浪士の義挙は、 茲(ここ)に根本の価値を顛倒(てんとう)し来るは当然なり」

 この記述について、『太平洋戦争と慶応義塾』22、23ページ「兵役の種類と階級」の項のコラムで、●太平洋戦争と慶応義塾2.jpg「・・・特に陸軍には福沢を国賊呼ばわりする皇国主義者が多かった。そこで慶応卒業者というだけで痛めつけられた者もいる。海軍でも『福沢諭吉の弊害について』という精神訓話が行われ、そのあと慶応出身者は揃って殴られた例もあった」と解説しています=写真㊧。今となってみれば、軍隊で批判されたことは"名誉"なことですが、当時、理不尽なリンチに痛めつけられた人たちのことを思うと、胸が痛み、怒りがこみ上げてきます。

 今年は平和について、いろいろ考えさせられた1年でした。今ある平和のありがたさと、これを守る大切さを、改めて感じる年末です。

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