【2013年12月 9日】のアーカイブ

 話題の映画「ハンナ・アーレント」を見てきました。平日の終業後、パレスサイドビルから歩いて15分の神保町「岩波ホール」へ。19時からの最終回でしたが、事前の混雑予想を聞いて、早めにチケット(写真㊦)を購入、18時半の開場5分前にエレベーターで10階に行くと、すでにかなりの行列。最後尾を探して階段を降りていくと、7階まで、人数にしたら100人近く並んでいたでしょうか。噂通りの盛況です。上映開始時は8~9割方、席が埋まっていた印象です(ここの上映は12月13日まで)。

 新聞の映画欄などの解説にある通り、ドイツに●DSC_1284.jpg生まれ、ナチス政権による迫害を逃れて米国に亡命したユダヤ人女性哲学者ハンナ・アーレントを描いた歴史ドラマ。何百万人ものユダヤ人を収容所へ送った元ナチス高官アイヒマンが1960年代初頭、逃亡先の南米で捕まり、その戦犯裁判でハンナの筆になる傍聴記が大論争を巻き起こした史実を描きます。ハンナは、「合法的な命令に従っただけ」と主張するアイヒマンの無思考性を指摘し、そうした「悪の凡庸さ」を指弾しました。極悪非道な殺人鬼を裁くという裁判の"コンセプト"を否定したわけで、激しいバッシングを受けました。そんなハンナの苦悩と信念への揺るぎない確信を通し、「絶対悪」とは何か、人間にとって「考える」とはどういうことか、哲学的に問う超硬派な作品です。シオニズム運動の指導者クルトなど彼女と絶縁していく長年の友人らもいますが、それでも信じることを譲らないハンナの強さに感銘するとともに、真実に忠実であることの厳しさを教えられます。

 哲学を真面目に学んだことのない身には難しかったの一言。彼女の師であるハイデッガーは、20世紀の最も重要な哲学者の一人とされますが、ナチスに入党し、礼賛した経歴もあります。若いころ、ハイデッガーと愛人関係にもあったハンナが、ハイデッガーの思想をどう"消化"したかなど基礎知識がないと、この映画はなかなかこなせません。"負け惜しみ"を言えば、世の中に難しいものがあることを思い出させてくれたという意味で、たまにはこんな難解な映画もありかと思います。

 読んでいませんが、ハンナに「人間の条件」という哲学の著作があります。映画を見ていて、同じ題名(正確には「人間の條件」)の五味川純平の小説のあるシーンを思い出しました。中国で現地の人を過酷に働かせている鉱山だったと思いますが、中国人が抗議行動に出て、日本の憲兵隊長が見せしめのため7人を処刑する中、中国人に同情的だった日本人監督係の主人公が「やめてくれ」を叫び、処刑が何人目かで中止になるといった話でした(細かいところで記憶違いがあったらお許しを)。主人公は憲兵にリンチされ、招集免除を取り消されて軍隊に放り込まれます。主人公の葛藤に、読んでいて胸を締め付けられた記憶があります。

 ハンナの映画の重要なポイントに、戦前、ユダヤ人が収容所に送られるにあたって、ユダヤ人の指導者が、渋々であれ「協力」したということがあります。ハンナがアイヒマン裁判で出てきたその話を傍聴記に書いたことが、批判された大きな要因でした。五味川が描いた主人公とユダヤ人指導者は、いずれも極限状態のなかで厳しい"選択"を迫られたという意味で、いろいろ考えさせられました。

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