2013

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二の丑に鰻の串を考える

 8月3日は土用の丑の日(二の丑)。7月22日が一の丑で、今年は2回あることは、7月23日の当ブログで書いた通り。

 今年は、稚魚(シラスウナギ)の乱獲で鰻が絶滅危惧種に指定されるということで、お店が価格高騰で困っているというニュースが目立ちますネ。1980年代後半以降、中国での日本向け養殖が盛んになって鰻は大衆化したわけですが、7月22日に東京・本郷の東大で開かれたシンポジウムでは、専門家が「飽食をやめ、ウナギを『ハレの日のごちそう』として大切に食べてほしい」「持続性を無視したお手軽な消費が水産資源と食文化の衰退を招いた」などと訴えたそうです(毎日新聞7月23日朝刊)。昔は高級品だったのが、いつの間にか庶民の味になったと喜んでいたものの、あだ花だったようです。大量消費に向かない資源を薄利多売のビジネスにしてしまったのが間違いだったということでしょう。

 たまたま読んだ本で、鰻が高級品だった時代のエピソードを見つけました。

 「覚書 幕末の水戸藩」という本で、著者は婦人問題研究家の草分け、山川菊栄189019801947(昭和22)年、片山内閣の下で新設されたばかりの労働省(現厚生労働省)の初代婦人少年局長も務めた人です。彼女は水戸藩士で弘道館教授頭取代理を務めた儒学者・史学者の青山延寿の孫で、延寿の父延于が弘道館初代教授頭取の儒学者。それら祖先の記録等をもとに書かれたのが同書です。尊王攘夷の先駆けとして思想的に明治維新に大きな影響を与えた水戸藩は、しかし、徳川御三家の一角の立場と尊攘との折り合いに苦慮し、天狗党に代表される尊攘派と保守派の間で、まさに血で血を洗う生臭い内紛を経験します。そんな幕末の様子を、実証的、かつ庶民の視点からまとめ、第2回大仏次郎賞を受賞した名著です。

 藩内の権力闘争にからんで士族の貧乏ぶりを描いた部分で、水戸藩士から東京帝大教授になった内藤耻叟(ちそう)という人が「水戸の家中はみな貧乏で、役人にならぬものは内職をして糊口をする者が多かった。・・・役人になれば鰻が食われるが、役人にならなければ鰻串を削らねばならぬ。食うと削ると、これ政権争奪の原因なり」と語ったとあります。鰻が贅沢のバロメーターだったんですね。

 ついでに興味をひかれたのが、鰻と切っても切れない関係の「串」。筆者は内藤の話に続けて次のように書いています。「鰻の串を削る内職も割合に近ごろ(出版されたのは1974年なので、今から40年ほど前か)まで水戸の特産となっていた武家のおきみやげで、その削り方が正直一途、いかにも念入りででき上がりがきれいなので、鰻の串は水戸に限るといわれ、特に値のいい高級品とされたという」

 元茨城県民としては、不覚にも、串が当地の特産品とは知りませんでした。そこ小川竹串店の串.JPGで、ネットで見つけた小川竹串店さん(茨城県鉾田市)にメールで尋ねたら、丁寧な返事を頂きました=写真㊨は同店ホームページより。

 「ウチは元々祖父が竹籠を作っていました・・・昭和30年代の終わり頃プラスチックの登場で竹籠が売れなくなり、竹串を作る商売に転換しました。需要もあったのでしょうね、水戸や岩間(現在は笠間)あたりでも竹串を作っている人が沢山いたようです・・・台湾や中国から安い竹串が入って来るようになり、今は国産の竹串を作っているところはあまりないようです。ウチも震災前まではかなりの数の国産を作っていましたが、地震で工場が倒壊し、ほとんど作ってません・・・竹串は主に中国から半製品(竹ひご)を輸入し加工して出荷しています。これは中国産として売っています。ウチで竹を切って、つきだして、乾燥して、先端を削って選別した物は国産の表記で売ります!と言ってもあまり作れないので大々的には言えませんが。いずれにしても自営業として、食べていくのが大変な商売です」

 震災がこんな特産品にも打撃を与えていたとは! 小川竹串店さん、頑張ってください!!

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