パレスサイドビルの西玄関を出て、ぶらりと竹橋を渡ると東京国立近代美術館(略称MOMAT)があります。収蔵作品が9,000点を超える近代美術の殿堂です。日本画・洋画・彫刻とも明治以降の日本美術の代表作が収集されています。
戦後1952年に京橋に建築されましたが、収集作品の増加等により1969年に北の丸公園の一角の現在地に移転しました。建物はブリジストンの実質創業者石橋正二郎氏が寄贈しました。石橋氏は自らもブリジストン美術館を設立し、数々の名画収集家。鳩山由紀夫元首相、邦夫元総務相兄弟は彼の孫にあたります。芸術家と政治家にパトロンは付き物ですが、石橋氏は芸術に関しては偉大なパトロンでした。
MOMATの企画展示は素晴らしいものがありますが、常時200点ほどの常設展示にも見逃せない作品が多くあります。これを紹介していこうと思います。
第1弾は「バラと少女」です。洋画界には多くの天才が登場しますが、大正期の村山槐多(かいた)も伝説の一人です。これは1917(大正6)年作、彼の代表作のひとつで、少女の赤い頬と大きなバラのピンクの花が幻想世界を構成しています。少女が槐多自身であるかのような素朴さと自信が感じられます。美しさを超えた魂の絵画です。
この時代、経済基盤も徒弟制度も確立していない洋画家に、貧困と病苦が定番でした。自分の才能に頼るしかなかったのです。槐多もデカタンで自由な生活の代償に、結核と貧乏のなか、1919年、22歳で生涯を終えます。画家としての活動期間はわずか5年、詩作にも秀でた彼の作品には流派や伝統から離れた湧き出る絵画への情熱が感じられます。生きている間は成功を見ることができなかったあたり、純粋芸術の悲劇を生きたゴッホやゴーギャンに比べられることもあります。
この絵と槐多と対面してください。その情熱を堪能した後は、パレスサイドビルで美味しいお茶を。(日曜はお休みですが)