先週(3月8日)、竹橋からも近い皇居東御苑の三の丸尚蔵館で開かれた「明治十二年明治天皇御下命『人物写真帖』-四五〇〇余名の肖像」を紹介しました。「『写真帖』は今回が初公開」ですが、写真が過去、一切外部に出なかったわけではないんです。被写体になった元勲らが、自分の写真を入手したでしょうし、ブロマイドとして焼き増しされ広く流布したものもあります。例えば前回紹介した大隈重信の若き日の写真(40歳前後)は、五百旗頭薫氏の「大隈重信と政党政治」という本のカバーに使われているといった具合です=写真㊦。
というようなことを調べていたら、思いがけず、面白いものを見つけました。西洋の古書(洋古書)を扱う雄松堂書店(新宿区坂町)のサイトで、広報誌「Net Pinus」61号(2005年9月)の『明治のアルバム セピア色のブロマイド』という記事です(http://www.yushodo.co.jp/pinus/61/meijiphoto/index.html)。そこに皇居の『写真帖』のものも含む元勲らの写真がいっぱい載っていたのです。その説明書きには次のようにあります。
「ロンドンの古書展の片隅にひっそりと息づいていた古いアルバム。開いてみると当時の著名人達の写真等が隙間なく貼られていました。100年もの時を経て、セピア色の深みを熟成させてきた肖像写真。あの歴史的人物のこんな写真が? 意外な発見があるかもしれません。」
想像してみてください。雄松堂の関係者が、何かいいものはないかと探していたにしても、遠い異国で、こんな『アルバム』に偶然出会ったら? 懐かしさのなかに、何か誇らしさみたいなものを感じたのではないでしょうか。
写真の横に日本語で名前と肩書程度の簡単な紹介が書かれ、下に英語で名前などの書き込みがあります。いつの世にも「有名人マニア」はいるのでしょう。そういう日本人が集めたものが英国人の手に渡ったのでしょう。
気付いたところでは、『アルバム』の大隈、勝海舟、そして「最後の元老」として大正天皇、昭和天皇を輔弼した西園寺公望などが『写真帖』の写真と同じでした。
下の写真㊧の西園寺(1849~1940年)は写真帖が制作された1879年ごろとすると、20代後半でしょう。歴史の授業や本の記憶としては、2・26事件後の事態収拾に動いたころの晩年に近い㊨の写真です。それぞれに味のある写真ですね。
『アルバム』は、「近代日本で活躍した勇士たち」「百年前のセレブ?皇族カップル」「明暗がわかれた!諸藩の末裔たち」の3部構成で計30人を掲載。「諸藩の末裔たち」では、一番上の写真のように、徳川慶喜、松平容保、毛利元徳、島津忠義らの表情を見ることができます。