アマチュア天文家・小川誠治さんから送られた東京・有楽町にあった東京で最初のプラネタリウム施設、東日天文館の絵葉書第3弾です。
「光冠 コロナ」というタイトルがついた絵葉書は皆既日食が描かれています。月に隠された太陽。周りからは太陽のガス体の大きな光が放射状に延び、黒い影の縁にはプロミネンス(紅炎)と呼ばれる赤い立ち昇る炎も見えます。
以前紹介した「月世界より見た日食」の絵葉書のように想像で描いたものと違って「光冠 コロナ」はかなりリアルです。というのも、絵葉書の解説にもあるように、東日天文館が完成する約1年半前、昭和11(1936)年6月19日午後に皆既日食があり、北海道で実際に観測、スケッチしたものを元にしているからなのです。
今年5月21日の金環日食の際は日本中が沸きましたが、昭和11年の皆既日食はそれ以上に大フィーバーだったようです。日本で見られた日食は鳥島での1918年6月9日を除くと、1896年8月9日に北海道で観測されて以来40年ぶりだっただけに、国内は日食観測一色だったようです。
日本全国で濃いサングラスが飛ぶように売れ、条件が最も良いとされた北海道では観測のために多くの学校が休校にしたり、臨時列車で観測見学に行く学生団体などもありました。また、北海道各地に観測所が作られ、そばには露店が数多く出店。太陽が欠けると整理の警備員が日食の様子を見たさに望遠鏡のほうに駆け寄ったために、警備どころではなくなり大混乱した、という話も残っています。
当然、マスコミも大々的に報道しました。NHKでは鹿児島から女満別まで全国28か所の放送局からラジオによるリレー中継を敢行。テレビなどの映像がまだない中で、空を見ながら言葉だけで伝えるのはアナウンサーもかなり苦労したようです。
東京日日新聞、大阪毎日新聞(ともに毎日新聞の前身)も予告をはじめ連日、日食の記事で紙面を埋めました。目を傷めないようにと観測上の注意や空模様に一喜一憂する様子を報じています。当日は「望遠鏡に映る異変の姿!」「白昼光なきこの怪異」などの見出しで北海道などでの観測の様子を伝える一方で、糠雨となった東京で「心なき京浜の空模様」「望遠鏡があくび」といった見出しでアマチュア天文家ががっかりしたという記事を載せています。また、北海道で撮影した写真を自社機で空輸して号外=写真下=も発行しました。
この大きな天体イベントがあり、宇宙へのロマンが沸き立っていただけに、東日天文館のプラネタリウム人気も大きくなったのでしょう。